【INRO.JP】代表の尾上です。
仕事柄出張が多い私はビジネスホテルに宿泊する機会が多くあります。
そのチェックインの際に、受付で宿泊者カードに住所と名前を書くのが嫌で嫌で仕方ありません。
なぜか?
それは字がとても汚いから、というとてもシンプルな理由でした。
受付カウンターの向こうからにっこり微笑む女性の目の前でミミズが這ったような字を書くことは私にとって苦痛、いや、屈辱ですらあります。
「チェックインをスムーズに済ませる携帯スタンプが作れないだろうか?」
この「屈辱」から逃れるために新しい商品開発をスタートさせることになったのでした。。
当初は手軽に持ち歩ける、ちょっとお洒落な外観の「ゴム印セット」で簡単に問題を解決できる安易に考えていました。
ところが実際に本気で商品化を進めてみると、たちまちその考えだけではまともな商品にはなり得ないということが解ってきました。
[当初の構想スケッチや商品イメージ。しかしこれを人前で使うことを想像すると、バッグからポーチを出し、スタンプを出し、インクを付け・・・これではとてもスマートとは言えません]
単に「人前で字を書かずに済む道具」ではなく、「スマート」に記入記名作業を済ませられる=「持っている人の魅力をより素敵に演出できるような商品でなければならない。」
「たかがスタンプ」にこんなこだわりを注ぎ込む、苦難を伴いながらも心を躍らせる商品開発の日々がここから始まりました。
この商品を使用する場面を想定すると、真っ先に浮かぶのがやはり開発のきっかけとなったホテルでのチェックインです。
また、ゴルフ場の受付でも同様の場面があります。
そんなとき最低限記入しなければならない内容は
・住所
・氏名
ですので、1つのボディに2つの印面は欲しい。
その上で、モバイルスタンプなのだから携帯が苦にならないコンパクトなサイズであること。
またスタンプする際に「私は字が汚いもので・・・」と言い訳したくなるような気持ちにならないこと、つまり自信を持って堂々とこのスタンプを使用する事ができる「所有感」も必須です。
それには適度な重量感や美しい外観が要求されます。
さらに、実際に使ったときにも「快適」だと感じてもらえる優れた「使用感」も外せません。
実用上の機能と所持する満足度のどちらも高いものにするためには私一人の知識や技術、感性では実現不可能なことは明白でした。
そこで私は私のビジネス上、初めてプロダクトデザイナーの力を借りる事にしました。
友人のつてをたどり、あるふたりのデザイナーに出会うことが出来ました。
東京で活動するクリエイティブユニット「TENT」です。
私の商品に対する想いを彼らに好き勝手に語り、その想いをデザイナーがひとつひとつ形にしていきました。
その形を見て、また私の想いが膨らみ、それをまたぶつける。
そんな繰り返しの中からモバイルスタンプINROに命の「鼓動」が与えられていったのです。
[依頼したプロダクトデザイナーはTENT。治田将之氏と青木亮作氏のクリエイティブユニットです。彼らの存在なしにINROの商品化は有り得ませんでした。]
[私の商品に対する想いを膨大な雑談の中から汲み取って頂き、最終4案のデザインが提案され、B案の形状でA案の素材感を出す融合案を採用としました。]
[試作とミーティングの繰り返しで想いが形になっていきます。]
外見上も大きな面積を占める金属キャップはアルミを採用し、シルバーとブラックには美しい梨地のアルマイト加工を施しました。
またホワイトは何層もの塗り重ねによって上品な艶のある仕上がりになっています。
二つのキャップをつなぐ黒い中央パーツには、金属の冷たさをバランス良く調和させるために見た目にも柔らかさを感じさせるエラストマー系の軟質樹脂素材を使用しています。
四隅に持たせた大きめのR(角丸)形状は視覚的な柔らかさや手に持った時のフィット感を向上させるだけでなく、バッグやケース(別売り)からの出し入れの際のスムーズな動きに大きな役割を果たしてくれます。
INROはスタンプ台がいらない浸透印タイプ。
つまりインクが最初から本体に充填されており、使いたい時にポンと捺すだけです。
もちろんインクの補充もできるので、半永久的に使えます。
INROは実際に使ってみるとなんともその心地よさに驚きます。
秘密は印面に装着してある樹脂スプリング。
このスプリングの本来の目的は、スタンプする場所の位置決めの際に、インクの付いた印面を浮かせた状態を保たせるものです。
つまり、INRO本体を用紙に置いてもそれだけではインクが付かないため、紙の上を気軽にずらしながら簡単に位置決めできるのです。
スタンプ位置が決まったらそこからそのまま押し込んでスタンプ!
この時、スプリングの持つ適度な反発力が「カドの取れたシームレスな動作感覚」を生み出します。
さらに軽すぎず重すぎない金属キャップの重量とのバランスで絶妙のスタンプ感触が実現できました。
二つのキャップを受け止める中央の黒いパーツ、ここには当初、一般的な硬質プラスチックを採用する予定でした。
しかし試作段階で試したところ、キャップをはめ込む際の感触が「カチッ」とした感じになることにちょっとした違和感を覚えたのです。
あのスタンプする際の適度な反発弾力による優しい感覚と、しっかり「カチッ」と閉まる感覚が全然違う商品に思えてしまう。
しかもスタンプする際の弾力感は、外観上にもその感覚をイメージ化し、キャップのカドをRにしたという経緯もあるくらい、私たちにとっては重要な要素だったりします。
ここはどうにかしてキャップをはめ込む際にも同様な「弾力感」「シームレス感」「カドの取れた感じ」、表現はさまざまですが、そういった感触に統一したいと考えました。
この「感触」の統一を行うために、中央パーツに使う樹脂の混合比率を変えた試作品を10種類以上用意し、その中から最適な「キャップのはめ込み具合」を実現できる柔軟性をもった素材を選び出しました。
この樹脂のおかげでキャップを押し込む時、「しっとり」という表現がぴったりの優しい感触を実現することができました。
通常、片面に「住所」もう片面に「氏名」で使うINRO。
どちらの面が住所でどちらの面が氏名なのかキャップを開ける前から判らないとスマートにスタンプすることはできません。
こういった場合、印面と同じ内容をキャップの外側などにシールなどで表示するのが一般的な事務用品です。
しかしINROは絶対に「事務用品」にしたくなかったため、スマートかつ、わかりやすい方法で印面方向の指定を行う必要がありました。
そこでデザイナーが頭を悩ませながら生み出したのが三角印の「指標」です。
この指標が付いてる面が上、三角の角が向いている方が氏名、底辺側が住所、というように簡単に判別できるようになっています。(縦書きにも対応できるよう、もう一ケ所に同様の指標があります。)
これでスタンプする際にわざわざ印面を確かめる必要がありません。
モバイルスタンプ、スマートスタンプ、チェックインスタンプ、etc・・・
この新商品の商品名を考えた際に「利用シーン」を想像しやすい名称がいくつか候補に上がりました。
しかし、どれもインパクトに欠けるのです。
そんなとき、デザイナーから提案があったのが「INRO(インロー)」
聞くとすぐに想像できますが、テレビ時代劇でおなじみ水戸黄門の「印籠」をオマージュしたもので、ビジネスマンが何気なく胸のポケットから取り出す様子をイメージしたところから出た名称です。
印籠はもともと古来の携帯用薬箱のことなのですが、携帯すること、字面だけの話で恐縮ですが、スタンプを意味する「印」の字があること、そして懐から取り出して「カッコいい」、そんな共通点を考えるともうこの名称しかない!と言う気持ちになったのです。
発音はご印籠と違って「イン」に強いアクセントをつけてお呼び下さい。(登録商標取得済み)
INROに採用したフォントは5種類です。
オーソドックスな明朝体とゴシック体を基本に、それぞれUD(ユニバーサルデザインフォント)と言われる識字しやすい明朝・ゴシックもご用意しております。
さらに冠婚葬祭の芳名帳への記名を想定して縦書き用に行書体もご用意しております。
(すべての書体で横書き縦書きどちらも可能です。)
※文字のレイアウトについて※
INROの印面は横幅が8cmです。スタンプしたいところに狙いをつけやすいように、「左寄せ(縦書きは上寄せ)」で刻印されております。
長い住所の場合は8cm一杯に広がるレイアウトになりますが、お名前の表記は住所ほどは長くならないことがほとんどのため、8cmの有効面の左側に寄せて作成します。
INROでお作りする印面内容は「氏名」「住所」に限りません。基本的にはお客様の自由です。しかしながら、作成上下記の制限がありますのであらかじめご了承下さいませ。
・最大32文字まで(半角英字、半角数字、記号などは0.5文字として数えます。)
・文字サイズは4号(18級)もしくは5号(15級)となります。文字数などによって弊社側で選択しますので、お客様にご指定頂くことはできません。
・インクカラーは黒となります。
・機種依存文字はご利用頂けませんので記号などのご指定は十分ご注意下さい。
試作品が出来た段階で私自身が常に持ち歩き、実際に利用して約1年が経ちます。 その間、数十回のホテルのチェックイン作業やさまざまな申し込み場面で必ず使用するようにしていますが、その手軽さ、スマートさに大変満足しています。
ホテルの受付で宿泊者カードにスタンプした瞬間、受付の方から「こんなスタンプがあるんですか!素晴らしいですね!」と驚きの声を頂いたことは1度や2度ではありません。
少々大げさな言い方かもしれませんが、これまで苦痛でしかなかった手書き作業によるチェックイン作業、できれば避けたいものでしたが、今ではちょっと自分をカッコよく見せられる絶好の機会になりました。
INROは確かに私の想いを叶えてくれる商品として現実のものになってくれました。
ただ、ホテルのチェックインについてはほんのわずかですが利用できない場合があったことも正直に付け加えておきます。
ホテルによっては、予約時の情報をプリントアウトして必要事項の内容が最初から印刷された宿泊者カードを用意しているところがたまにあります。
その場合、自筆での「署名(サイン)」を求められるため、スタンプでの代用はできませんでした。
ちなみに日本の法律を調べましたが、宿泊者カード=宿帳に記載するのは自筆でなければならない、という項目は一切ありません。
「住所」「氏名」と表示してある欄にはスタンプで表記しても全く問題ありませんのでご安心下さい。
また、「署名」となっていない宿泊者カードにINROを使用して、ホテル側から自筆を求められたことは一度もなかったことを付け加えておきます。
INROは住所と氏名が標準の使い方ですが、最大32文字までなら基本的にどんな文章でもスタンプにすることができます。(漢字・英字・ひらがな・カタカナ・数字に限ります。)
例えば、最近のビジネスシーンで見られるのが名刺にe-mailアドレスや携帯電話番号を印刷しない方法。
迷惑メール防止などの手段として仕方なくこういう名刺を使われる方も多いのですが、ビジネス上、相手によっては連絡先としてどうしても伝える必要があるのも事実です。
そんな時、INROにアドレスと携帯番号を仕込んでおけば、名刺の端や裏に何の面倒も無く一瞬で表示することができます。
このように同じことを繰り返し書き込む必要がある場面ではきっとINROがお役に立てると思います。